Northern Words

アラスカ留学の日記です。アラスカでなくても、ということをたくさん書きます

4月11日 とってもはれ くもひとつない

昨日、雲がすこしあったほうがいい、と書いたら、今日は雲一つない青空です。

もちろんこれも気持ちいい。

 

和田忍さんという漫画家さんの、お小遣いをくれるおじいちゃんのマンガを読んで泣いた。

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僕は母方のおじいちゃんとおばあちゃんと、1歳になって少ししてから、一緒に住んでいる。もう22年も一緒に住んでいる。僕の人生のほとんど。

2人ともいまでもとっても元気で、最近スマートフォンを始めた。スマートフォンのインターフェースって、もうほとんど記号化(アイコン化)されていて、初めて使う人には優しくないなあ、と思いながら、この間一時帰国した時に優しくゆっくり教えた。

 

おばあちゃんは一か月に一回くらいの頻度で、「お昼代。」といいながら、僕に5千円を握らせる。僕がいつも「いいよ、」と言って返そうとするもんだから、おばあちゃんは握らせた後、ささっと逃げる。貧乏を知っている人で、絶対にお金の無駄遣いはしない。なのに孫には5千円の昼飯を食わせようとする。

 

元銀行勤めだったおじいちゃんも節約家で、無駄遣いを絶対にしない。そして、おじいちゃんはめったにお金をくれない。お小遣い的に小銭をもらったこともあまりない。

あるとき、おばあちゃんが肺炎をこじらせて入院したことがあった。おばあちゃんはとても強いひとだったから、その分みんな動揺した。本人は、「みんなに迷惑をかけてしまう」なんてことを言いつつも、元気そうだった。

おじいちゃんはしぼんだ。とても寂しそうだった。あんなおじいちゃんは初めて見た。入院から2、3日後、お見舞いから帰ってきたおじいちゃんは、うちの車庫でくるまの角をぶつけてしまった。さらにしょげていたように見えた。

 

結局、代わりに僕がお見舞いやら、洗濯物やらを運ぶ役目を任された。

僕が、緑のフライタグに文庫本や財布を投げ入れ、きれいなタオルが入った紙袋を持って、「いってきます」と言いかけたとき、おじいちゃんが部屋から出てきた。「病院の駐車場代。」といって、5千円を差し出してきた。そんなかかるかっ。

千円もしない駐車場代を差し引いた、残りの4千円はお小遣いだった。お年玉以外にお小遣いをもらったのは初めてだったかもしれない。その5千円を受け取った後、えらくくすぐったい気分だったことを覚えている。

 

病室に着くと、僕とおばあちゃんは病室を出て、面会質に行った。そして、残りの4千円で、病院の自販機のお茶を買っておばあちゃんにあげた。僕はコーヒーを買った。それを飲みながら、港北ニュータウンのなだらかな丘陵を眺めながら、とりとめのない話をした。いつも夕ご飯越しに話す会話とは少し違った。もうおばあちゃんは強くないこと。おじいちゃんももしかしたら、もう強くないこと。そんな彼らの弱さを感じ、僕は、おばあちゃんと話しながら泣きだしそうになった。でもあたたかな気持ちだった。その時間が、おじいちゃんの5千円がくれたお小遣いだった。

 

おわり